戦略的研究センター 未来光イノベーション研究領域

領域紹介

Society 5.0では、『フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されることで初めてこのビッグデータが人工知能(AI)で解析され、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされることで,真のIoT社会の実現を可能にする』(内閣府HP)とされています。

ここで、3次元空間にあるフィジカル空間のセンシング技術の開発に関しては、世界の製造業がオープン・イノベーション・プラットフォームへパラダイムシフトが進む中、近年の半導体プロセッサーの処理速度の飛躍的な向上とイメージセンサの性能向上の助けもあって、多くの分野で盛んに進められているところです。そこでは、非接触・非破壊、高速性を兼ね備える光技術を発展させ、例えば工場における不良品検査、医療現場におけるがん検査、走行する自動車の周辺監視など、安心・安全を実現する取り組みの成功例は年々増え続けています。しかし、10年後を見据えたときに、センサー側の空間や時間スケールの制約とそれらのトレードオフによって、Society5.0の適用範囲が著しく限定されると考えられます。その理由を上記の現場を例と説明すると、工場ではマシンビジョンカメラによる全数検査が可能になったが、カメラの情報処理速度の限界から認識する空間領域と分解能の両立ができない、分解能を諦めれば疲労破壊に繋がる細かなキズを計測することができなくなり、折角AIを用いても結局そのフィードバックが得られなくなります。また医療現場では、近年PETやX線CTにより非侵襲または簡便な癌検診が可能になりました。癌の早期発見にはマイクロメートルの高い空間分解能が必須ですので、 20年以上も前からニューラルネットーワーク(AI)を導入して分解能向上の研究が行われてきましたが、現在センチメートルの分解能であり頭打ちの状況です。そのため、診療現場では時間経過を見て診断するという流れがとられています。これら何れの場合においても、マイクロメートルの空間分解能でイメージングできるセンシング機器の開発が急務です。これらの例以外にも空間認識技術の需要は高まっていますが、いずれも空間スケールはセンチメートルからメートル、時間スケールはミリ秒から秒というレンジが多く、空間と時間の性能仕様がトレードオフになっている場合もあります。そこで本領域では、まず3D空間をマイクロメートル・ナノメートル分解能でメートルに近い領域を計測するセンサシステムの開発し、さらにデータ取得の高速化との両立、高性能化を目指します。

また、3次元空間で評価すべき物理パラメータは、表面・界面を含む物体の座標以外に、電界、原子・分子などの元素、分光・電気感受率や屈折率、吸光度など多種にわたります。これらのパラメータのセンシング技術のこれまでの進展は、既存の学問体系において、例えば物理(光学)、化学(物理化学)、電気(高電圧工学)などことなる分野で進められてきました。しかし、ものづくりの高度化や現象を理解するためには、実は相互に情報を補完することが重要です。例えば、半導体製造工程中のドライエッチングの高性能化には、空間電界分布の計測ができると格段にコスト低下や製造速度向上が見込まれるものの、現在そのようなセンサーは存在しません。もし電界分布計測を実現できれば、電極やウェハーの空間配置や3D形状をマイクロメートル精度で制御する技術へつなげることが可能になるかもしれません。さらに、表面の化学的性質や組成変化を平行して測定できれば高い付加価値とすることもできます。 本領域の特色は、これらの複数の分野を融合した点にあります。これまで、上記の様な物理、化学、電気の分野・学会で独立に進められてきた3次元空間計測を、産業応用を前提として相互に技術補完します。多様な物理パラメータをセンシングする分野横断型で相互補完を目指す新たな価値創造に位置付けられる3次元空間センシングの開発を目指します。

具体的な産業応用先として、①半導体製造、②医療用検査、③自動車製造を想定し、要素技術としては、

  • 非線形光学・レーザー分光により、高空間分解能と材料解析の実現
  • 光コヒーレンス制御や干渉計測により、高空間分解能の実現
  • 光コム応用計測により、空間範囲認識領域の拡大
  • 先端イメージセンサの利用により、高速・高感度化の実現
  • レーザー開発により、高感度化の実現

などを目指して研究します。予め共通のターゲットを見据えることで分野横断型の3D空間計測技術の実現を目指します。

未来光イノベーション研究領域が
保有する技術と取り組む社会的課題