戦略的研究センター 未来光イノベーション研究領域

研究内容

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高速表面形状計測

自動車製造インライン全数検査装置 医療用検査装置

安心・安全の価値が急上昇している近年、加工などの製造業においても製品の高い品質保証が求められています。高い品質を実現するために、第一に製造工程や環境、設備の管理が重要であることは言うまでもありませんが、一般に製造エラーをゼロにすることは不可能なため、製品検査が必須であり、実は最も重要なカギとなります。その必要度に応じて検査に使用される計測器の高機能化は製造業の発展と共に進められてきましたが、大量生産を前提とする製造ラインにおいては、計測が製造速度に追従できないことが多く、時々抜き取って検査する手法が主流です。その結果、医療や自動車などの機能製品や鉄鋼やガラス素材、プラスティック製品などの製造で求められる表面のキズや塗装の形状検査では、製品の仕様を不良率という統計値で保障せざるを得ない状況も生じ得ます。もしこの様な現場に個々の製品をチェックできる全数検査器が導入されれば、品質保証の質は各段に向上されることになります。もし人体の安全に関わる分野の製品であれば、より全数検査を実現することの社会的意義は大きいでしょう。

製品の表面の形状や内部構造をインラインで全数検査できる様にするためには、単位時間当たりに空間を計測できるサンプリング点数である体積サンプリング速度(Voxel/sec)を向上する必要があります。限られた時間にライン上を高速に流れる製品表面の凹凸情報を取得する必要があるためです。また、より重要な技術課題として、振動に対する耐性向上(振動ロバスト性の向上)があります。製造ラインは一般に激しい振動環境の中にあり、例えば1点ずつ表面の位置データを順次取得する手法(ラスタースキャン)では、データ取得中の距離変動により検査エラーが生じます。この場合、ラスタースキャンを避けて2次元断層像をワンショット撮像する方法が有効になります。その取得時間(カメラではシャッタースピード)を高速化するとよりロバスト性を向上することができます。

光干渉断層法(OCT:Optical Coherence Tomography)は、垂直入射の光学系のうえにマイクロメートル分解能で奥行方向の情報取得が可能です。これは眼科を中心とした医療現場ですでに実用化が進んでいますが、上記の理由で産業応用は進んでいません。この課題を克服するために、本領域ではこれまでにマイクロメートル分解能を持つ光コム干渉の高次干渉信号まで用いることで、広い深さ範囲をもつ2次元断層像を高速測定する装置の実現を目指してきました。その一つの形態として具現化を進めてきた低コヒーレンスコム光源とワンショット2次元干渉計による光断層計測システムは、時間領域の低コヒーレンス干渉を空間並列で行えるだけでなく、高次干渉で深さ計測範囲の拡大の可能性も示しています。今後は測定対象に応じたシステムや光学系の最適化を進めていきます。

ここで、インライン検査における良or不良の判定をサンプリング速度以上の速度で行うことも重要な開発要素になります。量産型の製造ラインでは取得する3次元のデータ容量が膨大になるためにデータ取得レートでの平行解析が求められます。つまり、演算の時間コストも最小限に抑える課題にも対応します。

また、本技術の特徴を生かして、医療現場においてこれまでにない検査装置としての展開も試みる。

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空間電界分布計測

半導体製造検査装置

Society5.0が目指す社会では、スマートセンシング技術の進化が必要不可欠であり、高度なセンシングと5G/IoT/AIとが融合発展することで、目指すべき高度情報化社会が実現します。光、音、温度、加速度等のセンサーはますます高度化する一方、基礎物理量である『電界』を計測できるセンサーの開発は全く進んでいません。電界は、半導体プロセス、電力機器、高集積回路、車両エンジンなど、次世代技術や社会インフラ設備において重要な物理量です。従来の電界センサーはポッケルス効果を利用したセンサーであるため、大型で、侵襲的であり、限定的な条件でしか使用できませんでした。従って、空間の電界分布をリモートでイメージング計測できる汎用的な電界センサーは、これまで存在していません。

本研究では、非線形光学・レーザー分光を駆使することで、これまで実現できなかった高い感度と時空間分解能を併せ持つ革新的な電界ベクトル分布イメージングセンサを開発します。検出感度を限界まで向上させることで、ポイント検出から2次元イメージングへと展開させ、かつ究極の高速化であるシングルショットセンシングの実現を目指します。本研究では、プラズマエッチングへの展開を視野に入れています。計測対象として最もチャレンジングではあるが学術的にも産業的にも重要です。プラズマは幅広い分野で実用化が行われている一方でその基本特性については未解明な点が非常に多いため、産業利用における技術開発では経験に頼らざるを得ないのが現状です。その最大の理由は、極めて複雑なプラズマ反応に対して、その駆動源であり、自らも激しく時空間発展する電界ベクトル分布を、非侵襲かつ高感度で観測する手法が世の中に存在しないためと考えています。

プラズマ反応過程では様々な励起種やラジカルが生成される上に、これらが電界によって加速・衝突し、電離・かい離・イオン化を雪崩的に引き起こしながら、ナノ秒・マイクロメータのスケールで次々に時空間発展します。さらに、ほんの少しの擾乱(超弱電離空間)が加わるだけでプラズマの形態が大きく変わることがシミュレーションによって示されています(図参照)。また、分子種のクラスタ形成や分子配向が電離過程に影響を及ぼす可能性も示唆されています(S. Petretti, Chem. Phys. 2013)。

本研究の重要なポイントは、これまで実測不能であった電界ベクトル分布の時空間発展を、中赤外光技術を駆使することで極限まで高感度化し、“シングルショット”で“見える化”できるのではないか、という点にあります。これが可能となれば、プラズマエッチングの時空間構造が明らかとなり、高度制御すなわち超微細加工が実現するだけでなく、各種生産ラインやインフラ設備の電界異常のスマートモニタリングが実現し、Society5.0が目指す社会に大きく貢献することができると考えています。